はじめに
135kHzをワイヤー系のアンテナで運用するには、次の4段階の手順が必要と考えています。
- エレメント(ワイヤー)を張る。
- インダクタンス可変機構を備えたローディングコイルを作る。(場合によってはマッチング回路も)
- アースを確保する。
- 送信機とのインピーダンス整合(マッチング)を測定する機器により、SWRが下がるよう調整する。
1.~3.については既に多数の文献が出ています。しかし、4.についての文献は現状で非常に少なく、CQ ham radio誌などのこれまでの記事でも、実用となる情報はほとんど掲載されていないと思います。送信機が準備できても遠距離交信に至らない局の多くは、4.の方法が分からないため立ち止まるケースが多いと推測します。
135kHzにおける測定器の一例として、私が製作したインピーダンスメータと、それに至るまでの考え方について述べます。
既存の測定方法の検討
HF帯で送信機とアンテナの整合状態を測定する方法として、次の方法があります。
- ワンターンランプ、高周波電流計など「出力最大」を確認する方法
- SWR計
- ノイズブリッジなど、受信機を基準としたインピーダンス測定方法
- インピーダンスメーター、アンテナアナライザ、リターンロスブリッジなど、微小信号源を基準としたインピーダンス測定方法
それぞれ、135kHz帯では次のような特徴があります。
1. は送信しながらバリオメータを調整して、高周波電流が最大になるように調整する方法です。135kHzで1波長以上の交信を成功した局の多くが採用しているようです。共振状態(インピーダンスが純抵抗成分になった時)で50Ωに近いことが別の方法で確認されていることが必要です。アースが不十分な場合や、変形アンテナにチャレンジしたい場合、50Ωから大きく外れることが多いので、他の方法と併用する必要があります。
2.は、調整手段として全く役立ちません。強いて言えば、調整が済んだアンテナで送信する時の動作確認としてのみ有効です。昨年のハムフェアで購入した方が、どのように使用するのか興味があります。1.9MHzの超短縮アンテナをSWR計だけで作ると、このことが理解できます。バンド内の全てでSWRが高い場合、共振周波数がバンドより高いのか低いのか判定できず、Lを増減またはエレメント長の長短をどちらの方向に調整するか、行き当たりばったりで調整することになります。
3. [→JE3HHT局の製作記事]は、私の持っているI社のリグとの組み合わせでは使用困難でした。300kHz付近で受信機の感度が大きく変わり、ディップ点が分かりません。
4. を最善の方法と考えています。感電や送信機破損の心配がないので、極めて実用的です。
インピーダンスメーターの製作
下図の回路を製作しました。参考:「自作電子回路テキスト、大久保忠著、CQ出版社、p.88」
ホイートストンブリッジ等で使われている「被測定物を含む抵抗4本の接続」ではなく、トロイダルコアを利用した中点タップ付きトランスを使って部品数を少なくしてあります。
メーターが振り切れない程度に信号源の出力を調整して、周波数と抵抗値を徐々に変えていき、メーターの振れが0になった点が共振周波数、ボリウムの読みがインピーダンス(純抵抗値)です。
インピーダンスの測定値を示す基準抵抗として、500ΩAカーブのボリウムにテスターで測定した目盛りを付けました。200ΩBカーブも使用可能です。50Ω近辺の調整がしやすいので私は500ΩAカーブが好みです。
インピーダンスメータの信号源として次の条件を満たすものが必要です。
- 波形が正弦波である
- 周波数を広い範囲で可変できる(例えば100kHz~1MHz)
- 振幅を0~最大まで可変できる
- 周波数を変えても振幅が変化しない
- 周波数がデジタル表示できる(外付け周波数カウンタでも可)
私は次の方法を試しました。
- 中波帯スーパーヘテロダイン受信機の局部発信機を改造したLC発振回路
- ウィーンブリッジ発振回路
- DDS(秋月電子、貴田電子設計)
- 発振回路用のIC・モジュール(ICL8038、MAX038、LTC1799など)
- ファンクションゼネレータ
結果は…
- バリコンの可変範囲の制約のため、周波数の可変範囲が十分に得られません。周波数を変えた場合の振幅の変化が大きく、全く実用になりません。
- 1MHz近くになると振幅が小さくなり不安定。OPアンプやFETの周波数限界か。
- 出力調整付きバッファアンプを付ければ使用可能。クリック付きロータリーエンコーダの操作が面倒でした。
- ファンクションゼネレータ用のICL8038は2電源が必要で、電池を電源とするには向きません。秋月電子で手に入るLTC1799は、最大30MHzを可変抵抗のみで調整可能であり、期待できます。現在製作中。
- 全ての条件を満たす最終手段。ただしAC100V電源が必要で、大きくて重い。
ということで、4.が完成するまではファンクションゼネレータを移動運用に持参しています。周波数調整の分解能は、可変抵抗器1回転で100kHz~1MHzまで変化すれば十分です。
入手容易な周波数カウンタとして、貴田電子設計の製品や、秋月電子通商で扱っている周波数カウンタ付きDMM(これは安価)があります。
使用方法
- 1.8または1.9MHz付近に共振すると思われる値にコイルを設定して、HF帯のアンテナアナライザかSWR計で、SWRが下がることを確認します。断線によるトラブルを回避するため、この手順から始めています。
- 給電線をインピーダンスメータにつなぎ替え、インピーダンスメータでディップする(メーターの指示値が小さくなる)ことを確認します。
- コイルのインダクタンスを少しずつ上げていき、ディップ点が下がることを確認します。自己共振などにより現れる無関係なディップと混同しないように、インダクタンスを計画的に下げていき、真のディップ点を確実に追いかけます。
- エレメントが長い場合、135kHz付近になると、インダクタンスの変化に対する共振周波数の変化が非常に小さくなります。例えば40mエレメントで135kHz付近では、およそ0.1mH/kHz の変化率、つまり0.1mHのインダクタンス変化(5m漬物樽スペース巻きで7~8回巻き)に対して約1kHz動くようになります。いったん共振周波数を決めればコイルのインダクタンスの微小変化は特性に影響しにくく、極めて安定な動作をします。ただしエレメントの変化(風による揺れ等)には大きく影響されます。
- 135kHz帯でメーターの指針の振れがほぼ0になる点が見つかったら調整完了。給電線をリグにつなぎ替えます。インピーダンスが50Ωから大きく外れた場合、トランスによるインピーダンス変換で50Ωに合わせる方法もあります。私はFT240#43によるトランスを用意しています。
最後に、メーカーには、135kHz帯で使えるアンテナアナライザの発売を要望します。TX2200Aと同じくらいの台数は売れるはずです。
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